2016年が始まった。
新しい年のスタートにお届けするのは、クラブの先頭に立つ玉田稔社長のインタビュー。1年でのJ1復帰がかなわなかった2015年の反省、そして気持ちを新たに迎える2016シーズンへの意気込みを聞いた。
【前編】よりつづく

2016年は、将来に向けたスタートの年に

■2015年は、「セレッソの森スタジアム構想」スタートのビッグニュースがありました。
「Jリーグができて『百年構想』という理念が言われ出したころから、『日本中どこに行っても野球場はあるのにサッカー場がない。陸上競技場はあるのにサッカー場がない。おかしいんじゃないか』と思ってきました。私は、海外のサッカーはほとんど見たことがなかったけれど、夏にセレッソ大阪U-18のヨーロッパ遠征に同行したときに、各地で様々なスタジアムを見ることができました。人口2000人ぐらいの村に芝生のピッチがあり、ラウンジもある。そこに6チームを呼んでU-18世代の世界大会をやったら満員になって、村じゅうが盛り上がるんです。もう少し大きな街になると、芝生のピッチとラウンジがあって、周りに3~4面の練習グラウンドがある。アムステルダムでは2部のチームだったけど、5000人ぐらいのスタンドの横にレストランが付いていて食べたり飲んだりしながら試合を見られ、周りには7面の人工芝、天然芝のグラウンドがある。そこには1日中、いろんな人が来てサッカーをしている。なのに、日本にはサッカー専用もしくは球技専用のスタジアム、もしくは子どもたちがいつでもサッカーができるようなグラウンドはどこにあるんだろう、と」

■セレッソは、キンチョウスタジアムを改修する形で新しいスタジアムを作ろうとしています。
クラブの、チームの未来を象徴する「セレッソの森スタジアム構想」。2016年は、いよいよ実現に向けた準備が始まる。

「舞洲にクラブハウスとトレーニンググラウンドができて、南津守にもトレーニング施設があります。数えてみたら、天然芝グラウンド3面、人工芝グラウンド2面、日本で一番設備は整っているのではないかと思います。ここでトレーニングをして、2014年にはU-18とU-12が日本一になり、2015年はレディースが目標どおり『なでしこリーグ』2部に昇格し、ガールズは全国大会で優勝しました。12月28日には、U-15が高円宮杯第27回全日本ユースの決勝でライバルのガンバ大阪ジュニアユースを破り、日本一になりました。本当に将来が楽しみです。ただ、頂点であるトップチームがふたをしているようなイメージになってしまっているので、ここをどれだけ大きくしていって、さらに底辺を広げていくかということになります。みんながキンチョウスタジアムでゲームがしたい、たくさんの観客の前でゲームがしたいと思えるような雰囲気にクラブもチームもなったときに、やはり大きなスタジアムは必要です。大変だとは思いますが、今回の改修は、ぜひやりたいと思っています。
もうひとつ、ヨーロッパのクラブのスタジアムを見てよかったと感じたのは、手作り感です。街の規模に合ったスタジアムがあって、この街にこのスタジアムはちょっと大きすぎるなというところでは、空いたスペースにホテルを作って、子どもたちがキャンプに来られるような施設にしていました。そういうことを、キンチョウスタジアムをベースにやれたらいいだろうなと考えています。3駅が使えて、それぞれ徒歩10分以内と交通の便はものすごくいい。そこに3万人、4万人が入るようになれば、いいスタジアムができると思います。世界で一番厳しいと言われているAFCのスペックをクリアしますから、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)もぜひ開催したい。そのためにはチームが強くならないといけません」

■ACLには、また出場したいです。
「J1に昇格して常にACLにチャレンジできるぐらいのレベルのチームを作るためには、もう少し時間がかかると思いますが、育成から上がってくる選手は、それぞれの年代に複数の代表選手がいます。うまく育てたら本当に1位になれるのではと考えています。育成から一貫システムの中で強化しているなかで、期待しているのは、2016年にスタートするU-23です。J1昇格ができなかったことで、日曜日にJ2(トップチーム)とJ3(U-23)を行うことになりますが、ぜひこれは成功させたい。J1に上がってからの戦力のベースになるのが、このU-23の選手たち。ただ単に真剣勝負ができるというのではなく、真剣な場を提供してもらうのだから、しっかり勝ちに行ってJ3優勝を目標にする、それぐらいの気持ちで臨みたいです」

■2016年、トップチームの指揮を執るのは、大熊清監督に決まりました。
「2016シーズンの監督に望む条件は、まずはJ1昇格のためのチーム強化をしてもらうこと。選手個々のレベルに合った指導ができ、選手のモチベーションを上げるコミュニケーション能力を持った人物であること。そして、2015シーズンの課題である、残り10分を切った時間帯での失点を防ぐための、持久力を身につけてほしいということ。これについては、メンタル面、フィジカル面の両方で向上させてもらいたいです。そして、最大の決め手は『2015年の悔しさを知っている人がやるべき』ということでした。大熊監督は、J2での優勝経験があり、J2をよく知っている指導者でもあります。2016年は、彼に託そうということになりました。
とにかく1年でJ1に上げて、その先は3年間ぐらい腰を据えて指導してもらえるしっかりした監督を招へいしたい、そしてACL出場を常に目指せるチームづくりを、と考えています」
「2016年J1昇格」を託された大熊清監督。2015年の悔しさを誰よりも知っているだけに、期待は高まる。

■あらためて、チーム、クラブの2016年の目標をお願いします。
「セレッソ大阪とはどんなチームなのかという原点に帰って、『育成型』というものに本当にこだわるなら、外国籍選手も獲らずに2年、3年とJ2でやってもいいから、本当のセレッソ大阪を応援してくれる人たちのためのチームづくりをしたほうがいい、という意見もあります。ですが、2019年までにキンチョウスタジアムを改修して3万人から4万人収容規模にして、みんながそこで試合をすることに憧れるようなチームになろうとすると、やはりJ1で戦って、海外のチームとも互角に対戦できるチームづくりをしなければなりません。逆算すると、どうしても1年でJ1に戻らないといけない。なんとかフィットさせて、今度こそ自動昇格をしたいです。
また、クラブとしても、一つの方向に向かって走るという意味では、新たな1年になります。(一般社団法人)セレッソ大阪スポーツクラブとしては、長居公園の指定管理が始まって、キンチョウスタジアムの改修に向けた準備期間に入ります。大阪サッカークラブ(株式会社)では、中期計画を立てて、それをスタートさせる初年度になります。2016年は、J2(トップチーム)、J3(U-23)、なでしこ2部(セレッソ大阪堺レディース)、プレミアリーグ(U-18)と年間を通したリーグ戦が4つも同時進行することになります。1つのクラブとしてしっかりまとまって取り組まないと、とても回りません。いろいろな意味でリスタートの年であるという自覚をクラブスタッフ全員が持って、臨みたいと思います。
ファン、サポーターの皆さんには、ぜひこれまで同様に、熱くサポートいただきたいと思います。2016年もご支援、ご声援をいただきますよう、よろしくお願いします」

構成・文 横井素子
※この記事は、12月25日に行ったインタビューを中心に構成しています。