期待の大きさはチケットの販売状況にも表れていた。2月22日(金)、他のカードに先駆けて開催された明治安田生命J1リーグ第1節のヴィッセル神戸戦。「Jリーグ史上最上級の開幕戦」と銘打って行われた一戦は前売りでチケットが完売。開幕戦としてはクラブ史上最高の42,221人の観客が来場した。試合内容も、キャッチコピーに違わない見ごたえのあるものだった。

 ベールに包まれていたスターティングメンバーに、小さなサプライズがあった。「サッカーをやってきて、(公式戦では)右サイドは1回もやったことがなかった」と自らが語った舩木翔の右アウトサイドでの起用。J1デビュー戦で未知のポジションに取り組んだ舩木だったが、90分間無難にプレーしてみせた。

 プレビューでは神戸の戦力の充実ぶり、きらびやかさにスポットが当たった。そしてその予想通り、前半は神戸の強力な攻撃陣がセレッソ陣内に攻め込んだ。が、受けて立ったセレッソの守備はクレバーかつ力強く、隙を与えない。そしてこの試合の見どころは後半にあった。

 守勢に回った前半から、少しずつ反撃に転じたセレッソ。ロティーナ監督は次々に交代のカードを切った。64分には水沼宏太を下げ、都倉賢を1トップに入れると、柿谷曜一朗を2列目に配するフォーメーション変更も行った。70分には、清武弘嗣に代えてレアンドロ デサバトをボランチに投入。中盤でボールが動き始め、流れを手繰り寄せることに成功した。それが77分のCKから、山下達也の豪快な先制弾につながっていった。

 さらに88分には柿谷曜一朗に代わり松田陸を投入、前線に送った。思い切りよく人を代えシステムも変えることで、いつの間にかリズムはセレッソのものになっていった。実にダイナミズムに富んだ采配であり、それに応えた選手たちも見事であった。
「今までとは全く違う、ヨーロッパのやり方、知識というものを毎日毎日、練習やミーティングのなかでやっている。このポジションだからこれは必要ないということはなくて、全員がプレーに関われるように、そしてポジションごとの特性や選手の特徴をより生かせるように、パス1つにしてもアバウトに出すのではなく、次の選手がよりいい環境でプレーできるように、ディフェンスのときにどうボールを取るのか、なぜそうしないといけないのか、そうしたらどうなるのか、というのを全員に伝えながらやっている。難しい部分はもちろんあるけど、とりあえずやっとけば…というのでは、Jリーグのレベルが上がっている今、勝てない時代になっている。時間はかかるかもしれないけれど、試合を重ねていく毎に自分たちも自信になっていくと思う」
 開幕3日前、柿谷曜一朗はそんな表現で新監督の目指すサッカーについて話していた。

 スタジアムは歓喜に沸いたが、神戸戦後のロティーナ監督には初勝利に興奮する様子は見られなかった。
「ケガ人も多く、我々が思っているような、期待したプレシーズンではなかった。システムを多く使ったのも、少し発展を遅くさせたのかもしれない。でもその分、チームはこれからどんどん良くなって、まだまだ成長の余地があると思っています」      
 そう落ち着いて話す様子は、次戦以降の戦略に思いを巡らせているようにも見えた。

 満員のヤンマースタジアム長居で飾った開幕戦勝利。船出は上々で、これからの航海が楽しみな新生セレッソである。

文・横井素子

さらに魅力的なチームになるために--新監督のもと、チームは新しいチャレンジをしている。


◆横井素子 プロフィール
奈良県奈良市生まれ。広告代理店勤務のあと、フリーランスの編集・ライターとしてセレッソ大阪の広報ツールの制作などに携わる。
1999~2000、2008~2011年はセレッソ大阪トップチーム広報担当、現在はセレッソ大阪堺レディース広報担当、セレッソ大阪公式ファンサイト編集責任者を務める。