ケガをしてなかったら、 この子たちとも出会えなかった


第2回 1st HALF2nd HALF

 5月のある日、大阪府泉大津市にあるミズノフットサルプラザ泉大津の人工芝グラウンドに「せいちゃんコーチ」の声が響き渡っていた。今年は、セレッソ大阪サッカースクール泉大津校のメインコーチとして、週4日子どもたちにサッカーを教えている。
「なんでコーチを続けようと思ったのか考えてみたんですけど、僕にとっては、中山昇コーチの存在が大きかったんです。サポートでついていた時、指導の仕方を見てすごく感じるところがありました。僕もこんな指導者になりたいと思いました。それがスクールコーチとしてやっていこうと思うようになったきっかけのひとつです。中山コーチは、子どもとの距離感がいい。すぐに子どもに溶け込みつつ、教える時はしっかり教える。一番憧れているコーチです」

 中山もアカデミー出身、トップチームでもプレーしていた大先輩だ。初めて会った時の印象は強烈だった。
「中学2年の時、南津守のクラブハウスでリハビリをしていると、金髪の丸刈り頭のいかつい選手が近づいてきて、『お前、足のサイズ何ぼや』と聞かれて…怖いなと思ったけど『25.5です』と答えると、『これ、あげるわ』と新しいスパイクをくれたんです。そのことは昇コーチも覚えていて、『あの子、誠次郎やったんか』と言われました」

 スクールコーチになって3年目、今年からプロフェッショナル契約になった。
「教えることは難しいです。子どもたちのレベルはそれぞれ違うので、ひとりひとり丁寧に教える必要があると思います。子どもたちに夢を与える仕事なので、魅力的だし、これからも携わっていきたい。自分が学ぶことを止めたら子どもも学ぶことを止めるので、常に僕も学ぶつもりでやらないといけない。そうでないと子どもは僕についてこないと思います」

今井誠次郎
「子どもたちが少しでもうまくなれるように、いい人間になってくれたらうれしい」。スクール生の成長に力を注いでいる。

 今年から通信教育の大学に入り、教員免許を取る勉強を始めた。目下の夢は、「海外で、子どもにサッカーを教えること」。セレッソが提携するタイ・バンコクグラスFCとの交流事業の1つ、タイの子どもたちにサッカーを教える事業に参加したいのだと話す。
「今年から、英会話も習っています。まだまだ話せないですけど、タイに行って英語で子どもにサッカーを教えたい」

 4度のケガと手術、リハビリを経験したセレッソアカデミーでの6年間を経ての現在。感謝しかないと今井は言う。
「なんで僕にこんなにやさしくしてくれるんやろう、と思ったことは何度もあります。小学6年生でケガをした時、アカデミー入りを断られるかと思っていましたし、U-18にも絶対上がられへんと思っていたのに。自分は本当に大事にしてもらった。セレッソには感謝してもしきれません。何度もケガをして、こんなに迷惑をかけてきているのに、スクールコーチまでやらせてくれるクラブなんて、どこを探してもないと思います」

 迷いはもうない。感謝を胸に、真摯に自分の仕事に向き合っている。
「僕はコーチとして頑張っていく。担当を持っているし、その子たちが少しでもうまくなって、いい人間になってくれればうれしいです。ケガをしたからこそ…と思えることも、今見つけているように思います。教えている子どもたちとは、ケガをしていなかったら出会えてなかったですから。ただ、環境は違っても、今も(南野)拓実や(秋山)大地には負けたくないと思っています」

 サッカーを教えながら、自身も学び成長を続ける日々。取材をしていて感じたのは、周囲の人たちの彼に対する慈愛といってもいい温かさだった。アカデミーで育った今井は、今もセレッソで育まれている。

文・構成 横井素子



【いまい せいじろう】
1994年5月17日生まれ 大阪府出身。
地元のつばさFCから2007年にセレッソ大阪U-15に加入。2010年には、U-18に昇格したが、4度の左足前十字靭帯断裂を負い、2012年の高校3年時に引退を決めた。
2013年からセレッソ大阪サッカースクールコーチを務め、今年が3年目。南野拓実(ザルツブルク)、秋山大地(愛媛FCに期限付き移籍中)とはU-15時代からのチームメイト。
現在はセレッソ大阪スポーツクラブ泉大津校のメインコーチを務める。
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