「ただ昇格すればいい」というのではいけない
「将来につながるものを今作っているのか?」という問いかけが必要だ

監督 パウロ・アウトゥオリ

これまで、母国ブラジルを始め、ポルトガルやペルー、カタールで多くのクラブチーム、そしてナショナルチーム(カタール)で指揮を執ってきたパウロ・アウトゥオリ監督。
 就任から約3カ月。気になるここまでのチームづくりのプロセスについて、そして「J1復帰」に向けた思いを聞いた。


■ここまで7試合を戦って、3勝3分1敗で勝点12という成績です。これについてはどう感じていますか?
「個別の勝敗にこだわるのではなくて、私はチームのパフォーマンスを含めて、全体の流れを見ています。すべてにおいて、準備ができたかというところを細かく見ていっているのですが、今までと今シーズンのメソッド(方法、方式)が違うというところを考えると、そのなかではしっかり成長していると思います。さらに言うと、私がここにいる間にただ結果を出せばいいというのではない、ということです。最終的には結果、つまりJ1昇格ですが、それは、セレッソはJ1にいるべきチームであるからということですが、ただ昇格するだけではなく、より堅いベースを作ったうえで後退をしてはいけないということです。分析するならば、全体の流れを見ないといけないと思っています。
 ここ数年、セレッソは波があるというのが現状なので、なぜそうなってしまったのかを分析しないといけません。いい時とよくない時、この高低差をまずなくしたい。そのうえで、上向きになるよう、成長につながるようにしないといけません。それはピッチの中で、いろいろな要素が関わってくる。そのすべて変えていかないと成長はしません。少なくともメンタリティという部分では、時間をかけて勝利にこだわる気持ちをもっともっと出していく、みんながそれを持つ必要があります。そしてただ勝つのではなく、いい内容で勝つということ。それを望むだけではなく、そのためのいい準備をするということが大切です。
 私のビジョンというものは、始動日に選手たちにしっかり伝えたつもりです。そして、ここまでの全体的な流れは、試合だけに限らず、選手たちの日々のトレーニングを見ても、すごく手ごたえを感じていますし、今までの試合の中でも、ほとんどの時間帯は満足いくものでした。プロセスの過程では、当然多少は波があると思いますが、少なくとも後退はしていない。もしかしたら、横に一歩踏み出したというような時もあったかもしれないですが、ここまでは流れとして悪くないと思っています」


■チームを作っていく作業は、順調であるということですね?

「そうです。もちろん、改善しなければならないところはたくさんあります。けれど、成長の度合いとしては、かなりいいと思っています。私が見ている限りでは。自分たちの目指すサッカーをまず理解するという点で、選手たちは理解度の高さを示しています。その上で、ピッチで表現しようとしていることをすごく感じます」


■前節(第7節)のツエーゲン金沢戦試合サマリー]は、初めての敗戦になりました。内容も完敗だったと思います。あの試合を受けて、選手たちにはどんな話をしましたか?
「試合の後は、いつも少し話をすることにしています。いろんな意味で、いろんな角度から。金沢戦の前半は、今シーズンで一番良かったと私は思っています。いいプレーはできていたけれど、最終的に効果的な結果、ゴールにはつながらなかった。それが前半でした。後半は、いつもだったら立て直せたのですが…。(2点差から逆転し、その後リードを許すも土壇場で引き分けに持ち込んだ)千葉戦試合サマリー]や、あれだけ厳しいピッチコンディションだった岐阜戦試合サマリー]でも、そういう姿を見せられたのですが、金沢との試合ではできなかった。
 思うのは、セレッソは昨年、非常に厳しい状況が続いていました。その時に感じたいやな思いをなかなか掻き消せないというのもあると思います。選手たちにも言ったのですが、心の深くに残っているものがどうしてもあるのではないかと。たとえば厳しい状況に追い込まれた時に、やっぱり頭をよぎるということが当然あると思います。それを掻き消していけるか、ということが次の試合で重要になります。結果はもちろん大事ですが、気持ちの上で立て直せているかどうか。私は、もちろん彼らなら立て直してくれると思います。しかし、少し停滞してしまうというのも、プロセスのひとつとしてあることだと思っています」


■次節のザスパクサツ群馬戦がとても重要になりますね。ところで、監督がセレッソで目指しているサッカー、植えつけようとするサッカーについて聞かせてください。
「理解しやすい言葉でいうと、サッカーの中での勝負強さをしっかり出したい。何かというと、クオリティー プラス 結果につなげる、ということ。いいサッカーをして、さらに勝つ、ということです。もちろんいいサッカーをしていなくても試合に勝つことがあるのですが、逆にいいサッカーをしても勝利につながらないときもあります。

激しい点の取り合いで目の離せない展開になった千葉戦(4月1日)。フォルランも2ゴールと躍動
そこで勝負強さというのが問われると思います。できれば、勝負強さを見せつつ、質を問うということを追い求めたいと思います。スタジアムに通う人たちは、いいサッカーを見たいと思います。千葉との試合、あれは最高のものだった。会見でも言いましたが、勝者を選ぶとすればそれはサッカーだったという試合でした。
 今、選手に話しているのは、縦の意識です。常に相手にとって嫌な縦への動き、縦へのボールを意識していこうということです。加えて、絶対にあきらめない姿勢は求めたいと思います。そして、勝利にとことんこだわる貪欲さ、気持ちの強さを含めての勝負強さを求めたいと思います」


■そういうチームに作り上げていく、やり遂げる自信については?
「そこは自信があります。始動日に話したのですが、どんな形でもいいから昇格するというとらえ方はしてはいけないと思います。どんな形でもいい、なんでもいいから昇格するというのではなくて、必要な土台、バランスのいいチームを作ることが必要です。セレッソの歴史から考えて、今まさしくバランスを問われるところだと思います。ここは修正をしなくてはいけません。このシーズンを通しての話になりますが、もちろん昇格につながる結果を求めていかないといけないのですが、それと並行して、チームの基盤をしっかり作り上げなくてはいけない。でないと、J1に戻ってから、強いチームとして戦えないと思います。土台がしっかりできれば、あとは微調整を繰り返して成長していくはずなのです」


■J1に上がるという結果を出すことと同時にチームの土台も作るというのは、難しいことではありませんか?「とにかく今年はJ1に上がればいい」という考えもある中で、チャレンジすることになります。
「『何でもいいからJ1に上がればいい』ということをすると、逆に時間をロスすることになる、時間を無駄にすることになります。私は、エチケットとして、過去の話をするつもりはありません。自分はチームにいなかったですしね。ただ、過去の成績を見てこうだったんじゃないか、という話はできます。ここ数年の成績を見ても、おそらくそういう傾向が言えるのではないかと思います。『波があるのがサッカーだ』というとらえ方をするのはいけません。それを自然だととらえるのは絶対にいけない。自分たちに問いかけないといけないのです。『将来につながるものを今作っているのか?』という自問自答を常にしないといけない。我々セレッソが歴史のなかで、どうしてこうなってしまったのかということを、クラブの中で自分たちに問いかけないといけない。問いかけ続けないと同じことを繰り返してしまうと思います」


構成・文 横井素子
インタビュー:4月15日

Vol.2 【後編】につづく