サポーターの皆さんには感謝の気持ちしかない
ベストを尽くし、勝利という結果につなげたい

監督 パウロ・アウトゥオリ

自らの仕事に関して、ゆるぎない自信と情熱を持つパウロ・アウトゥオリ監督。セレッソ大阪の若手選手について、またキャプテン・山口蛍選手について、さらには日本サッカーへの思い、サポーターの皆さんへの思いについても語った。
Vol.2【前編】


■今年、セレッソには若い選手がアカデミーや高校から入ってきました。彼らをプロフェッショナルな選手に育てていくうえで、必要なことや心がけていることは何でしょうか?
「若手については、ポテンシャルの高い選手がそろっているので、細心の注意を払って育てていく必要があると思います。今、すべてにおいていい感じで伸びてきている、順調にきていると感じています。日本のサッカー界において、18歳で高校を卒業した時から、トップチームで常に公式戦に関わるようになるまでに、空白期間ができてしまっている気がします。もちろん、若い選手であっても成熟度の高い選手はいるはずで、それは例外的な選手ということになるかもしれないですが。
 私は、すべてにおいて若い彼らをサポートして育てていきたい。現代サッカーで求められるものは何なのかということを彼らに理解してもらいたいという思いを持ちながら、今仕事をしています。
 そのためには、できるだけ多くの練習試合をしたい。この間(4月13日)ガンバと練習試合[試合結果 をしましたが、ああいう試合をどんどんやっていきたいと思います。強い相手と対戦して、勝つ・負ける…そこで勝ち負けだけにこだわってもいけないですが、少なくとも勝利にこだわることが必要です。カタールで若い選手がそろったチームで指揮を執った経験がありますが、世界に共通するのは、育成のところに本当に細心の注意を払って、そこを重視して土台を築き上げていくこと。それが世界のサッカー界に必要な大事な仕事の一つだと思います」


■セレッソに加わった新人選手たちはうまく育っていきそうですか?
「間違いなく手ごたえを感じています。クオリティーがまずあるということ。そして強い気持ちを感じるし、戦う姿勢も感じます。素直に私たちの言っていることを聞こうという耳も持っている。我慢強く彼らのサポートをしてくことが必要だと思います。フォローし続けていきたいです。彼らこそが、クラブの将来のあるべき姿を担っていると思います」


■今年の初めに山口蛍選手をキャプテンに指名しました。その理由は?

パウロ・アウトゥオリ監督が全幅の信頼を寄せるキャプテン・山口蛍
「私がいつも思うのは、いろんなところで仕事をしてきたなかで、常にそこに今あるもの、今までの流れというものをリスペクトしたいという気持ちがあります。自分がしたいからするのではなくて、必要性があるものをやっていくべきだと私は思います。
 冷静に考えれば誰もが納得してもらえると思うのですが、蛍は去年、ケガをするまではキャプテンでした。ケガをしてしまって、試合に出られなくなったから、試合の中ではキャプテンではなかったということですので、今年はキャプテンマークをほかの選手に引き渡す理由はまったくないと思いました。去年キャプテンに選ばれていた、ケガをするまでキャプテンであったということは、理由があってしかるべきで、キャプテンとしてふさわしいから腕章をつけていたのです。
 彼がキャプテンをするということは、冷静に考えれば誰もが納得するものであり、私自身も納得できるものでした。彼のピッチでのパフォーマンスを見ていると、あるいはピッチ外でもそうですが、彼のクオリティーを見ているとまったく格の違う選手だと思うし、現代サッカーに必要なものをすべて備えています」


■セレッソのサポーターにとって心配なのは、夏に戦力が変わる可能性があるということです。ヨーロッパのサッカーとはサイクルが違うため、過去にもシーズン途中で主力選手がいなくなるという事態が発生しました。実際、フォルラン選手やカカウ選手との契約期間は夏までになっています。
「確かにそれは大きな問題です。カレンダーが違うということ、ヨーロッパはサッカー界ではより力があるということで、どうしてもそういう流れになってしまいます。シーズン途中に選手を流出させてしまわないようにしっかり契約を考えることも、クラブにとって必要なことになります。もちろん、サポーターの方が心配なさっているのと同じで、私たちも心配です(笑)。理想は流出させたくないということです。
 今年に関して言えば、シーズンが始まる前にはそういった(夏までの契約の選手がいるという)情報は教えてもらっていました。継続性というのは、本当に大事です。選手が途中でいなくなると、そこで継続性については問題が起こってしまいます。選手がいなくなると、一歩後退という状況になってしまう。だけれども今回の話は前から聞いていたので、あとはクラブの人にゆだねるしかない、ということになります。やはり、J1からJ2に降格したことで、影響を受ける部分がある、J2にいることでクラブにとっては動きに制限を受けることがあるかもしれません。サポーターの皆さんも、我々も、そこは理解しないといけないかもしれません。
 答えとしては、今までサポーターの人たちにこれだけ力強い後押しをしてもらったことに対して、グラウンドでは結果を出すしかないですし、そのために日々の練習をしていく、そういう問題も含めて、賢く対応していかなければと思います」


■今回、セレッソに来て約3カ月です。日本での生活は落ち着きましたか?

「今までいろんな国で仕事をしてきて、どこも文化が違います。でも、私にとっては、適応という意味ではまったく難しさはないです。さらに以前に住んだ国でもありますから。
 日本がすごく好きになって、また帰ってくることができた。帰って来られてうれしかったという気持ちです。以前に日本で暮らした経験があったことが、日本に帰ってくるという決断をした理由の1つでもあります」


■2006年に鹿島アントラーズでの仕事をして以来の日本での仕事になります。日本のサッカー、Jリーグのサッカーに変化や違いは感じますか?
「結構長い期間いなかったわけですが、その間には中東でも仕事をする機会がありました。見ていると、日本のサッカーの成長というものは大きかったと思います。今、本当に多くの選手が海外、特にドイツでプレーしています。世界の模範となるサッカーをしているドイツで、あれだけ多くの選手がサッカーをしているということは、成長の証、本当にすさまじい成長だったと思います。ただこの2年ぐらいは少し停滞している感じはします。急激な成長を遂げたあとのこの2年間ぐらいは、ひょっとしたら停滞している期間なのかなと。
 そこはフィジカル的な問題なのかもしれないです。現代サッカーにひょっとして追いついていない点がいくつかあるのかもしれません。たとえば、ドイツは今世界で模範となるサッカーをしていますが、かつてはフィジカルに偏ったサッカーをしていました。今は技術重視のサッカーに変えていますよね。もちろん、フィジカルというのは、すべてを支える土台になるもので、その上に戦術・技術がきます。それが現代サッカーでは主流になってくると思います」


■セレッソ大阪のホームスタジアムの雰囲気や、ファン・サポーターの皆さんの応援についてはどう感じていますか?
「本当にいいです。残念ながら降格してしまったあとも、常にこうして支えてくださった人たちがいるということを感じると、サポーターの皆さんには本当に感謝の気持ちしかありません。我々は、感謝の気持ちを表す方法として、とにかくベストを尽くし、それをピッチで表現するということです。そして、ただベストを尽くすだけではなく、勝利という結果につなげたいと思います」


構成・文 横井素子
インタビュー:4月15日