「1年でJ1へ」の思いで、
監督のオファーを即決

 パウロ・アウトゥオリ前監督の退任が決まり、代わって就任した大熊清新監督。残り試合は、リーグ戦1試合とJ1昇格プレーオフという時期の交代は、果たしてチームを活性化するカンフル剤となるのか?監督交代に至る経緯や、決断に秘めた思い、J1昇格に向けてどうチームを率いるのかについて聞いた。


■11月17日の就任から3日、今の心境は?
「正直、時間のないところで慌しくはありましたが、監督をするのは初めてではないですし、チームをずっと見ているなかで、こういう方がいいかなというものもありました。どうにかして、J1に上げたいという思いがまずあって、今もそういう気持ちが強いです」

監督就任発表は11月17日に行われた。
玉田社長(左)の要請を大熊監督は即答で受けたという。

■ここまでのチームをどんなふうに見ていましたか?
「チームは生きものなので、言葉は悪いですけど、時には病気になったり、立ち直ったり、いろいろあります。外から見ていても、生きものなんだなと感じました。いろいろなアプローチがあり、選手の入れ替えなど様々な紆余曲折がありました。予算の面や、契約のことなどは予想の範囲内ですけど、やっぱり簡単ではないな、思った通りだなという感じでした」

■ケガ人も多かったですね。
「そうですね。ただ、クラブの理解を得て人数を多く抱えることができていたので、選手がまったく足りなくなるということはなかったんです。選手のケガの履歴などを考えて、他のチームより多くしておいたこともあり、人数的にドタバタすることはなかったですけど、攻撃の部分で主力が変わったり、それによってやり方を模索したりと、パウロ・アウトゥオリ監督にとっても、難しいところがあったのかなと思います」

■パウロ・アウトゥオリ前監督を見ていて、最近はかなりお疲れの様子が見えました。
「J2は初めてということで、(J2は)独特のところがありますから、苦労されているのはわかりました。夏のウインドーで主力が抜けて、人を変えたり役割を変えたりというのはあったのかなと思います。また、監督の考えとして、全員にチャンスを与えたいということもあったので、システムや役割を前向きな意味で模索していたのかなと思います」

■最近の試合では、1試合ごとにメンバーを入れ替えたり、システムを変えたりということもありました。
「もともと全員でサッカーをやりたいというのがあって、クラブのビジョンとして、最強の育成型のチームを作るというなかでは、ユース(出身)の選手の前川(大河)が夏過ぎ頃から出てきたり、期限付移籍で出ていた秋山(大地)たちが伸びたりということで、完成度は低いかもしれないけれど、そういう力も盛り込みたいというのはあったと思います。クラブのビジョンをきちんと共有したいという監督の思いは感じましたね」

■先日の就任会見で玉田社長が監督交代を決断したという話がありましたが、大熊さんは、前監督に退いていただくという判断はどの時点でされましたか?
「チームの分析についてのレポートを提出するということは常にしていて、自分の中でのガイドラインというか、これくらいの時期に何位以内にいないと自動昇格はない、というラインがあって、そういう計算や内容の分析は1試合1試合していました。そこは社長とずっとコミュニケーションはとっていました。チームは生きものなので、変えるのがいいのか、継続するのがいいのか、すごい決断が必要です。情報交換をずっとしていたなかで、社長のこういう決断ということになると思います」

■夏前の一時期、9位になったこともありましたが、盛り返して2位にかなり肉薄したこともありました。そのあとはなかなか勝ちきれないこともあり、今の順位になっています。
「ケガも多少あったのと、やはり原因として、メンタルも含めた足りないところがあって、乗り越えられなかったというのは、謙虚に認めないといけないです。今まで、自動昇格の2位以内に1度もたどり着いていないというのは、やはり自分たちに足りない部分があるのだと。俺たちはやれるんだ、上手いんだ、と言葉で言うのは簡単ですが、結果に出せていない。記者会見でも言いましたけれど、上手いチームじゃなくて、強いチームにしたいしなりたい。上手くて強いのが一番いい、と。上手いに満足しないチームが突き詰めていって、『強い』になる。その点で今は発展途上で、J2で勝ちきれない要因だと思います。メンタルも含めた強さ、厳しさ、負けを認める謙虚さ、そして球際の厳しさや切りかえ、相手より走るという一番大切なところが、足りないというのはあると思います」

■前監督の退任という社長の決断を受けて、次の監督にというオファーがありました。即決で引き受けられたのでしょうか?
「自分がセレッソに来て、準備段階も含めれば約1年ぐらいになります。J2でずっと苦労しているチームもありますし、自分自身もJ2の苦しさを知っているので、どうしても1年で上げたい。簡単ではないけれど、どうしても1年で上げたいという気持ちの中で、自然に『はい』と言っていました。(今年昇格するという)目標から逆算して、時間がどうのこうとかではなくて、純粋に上げるために、です。社長の苦渋の選択というのもわかりましたし、迷いはなく即決でした」

■今、指導するなかで、選手に一番伝えていることは何でしょうか?
「全員守備全員攻撃ということ、あとは本質のところです。サッカーはそんな急に上手くならないので、変えるとしたら、走るときは走る、滑るときは滑る、セレッソの良さを引き出すためには、ボール回しをして、相手より走り負けていた試合も目に付くので、走るという基本をまず話しています。あとは、チームとしての共通意識、どういうところで行くのか、引いた相手にはどうするんだとか、俺たちのストロング(ポイント)はここだから、これで行くんだとか、そういう柱みたいなものをみんなで共有して向かっていこうとしています。うちのチームは、いい時や気分のいい時は強いんだけど、劣勢に弱い。そういうときに、立ち戻るところというか、自信のようなものは植えつけないといけないのかなと思います」


Vol.11【後編】につづく

構成・文 横井素子
インタビュー:11月20日