2015年2月に就任した玉田稔社長が、2018年末で退任することが決まった。2015年、2016年のJ2リーグでの戦い、J1昇格、そして2017年には悲願のタイトル獲得……。激動の4年間を振り返るとともに、森島寛晃新社長のもとで始まる新時代への期待についても聞いた。
特別インタビュー【前編】

伝えたかったサポーターへの感謝
2019年、新体制への期待

■コレオグラフィーに感涙
「ルヴァンカップと天皇杯、2つのタイトルを獲ってくれ、2回とも決勝は埼玉スタジアム2002でした。一番印象に残っているのは、ルヴァンカップ決勝の試合前、『カップをピンクに染めよう!』とサポーターが歌って、コレオグラフィーを作ってくれたことです。あれは感激しました。サポーターというのは本当にありがたいなぁ、と。試合前でしたけど涙が出ました。同じように天皇杯でも星が2つのコレオを作ってくれました。サポーターの皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。

決勝のコレオグラフィー。玉田社長は感動し、試合前に涙が出たと話す

 就任したころ、ホームゲームのスタジアム入口で、サポーターの皆さんをお迎えしていました。1年目と2年目、2シーズンやりましたが、3年目(2017年)の途中、夏前に止めたんです。なぜかというと、勝てなかったからです(苦笑)。ジンクスじゃないけれど、自分が挨拶に立つと勝てない試合が続いたので、1度止めてみようと。そうしたら負けなくなった。だから、2017年と2018年はあえてしなかったんです。もともとジンクスはかつがないほうなんですが、この4年間は結構かつぎました。サポーターの皆さんが入場されるときにいろいろお話をしたり、声を聞けたことは非常によかったんですけど、何も言わずに止めてしまったのは申し訳なかったなと思います。実はこういう理由があったからなんです(笑)」

■言えなかったサポーターへのお礼
「私は積極的にサポーターの皆さんの中に入っていくことを、あえてしませんでした。触れ合うのは、あくまでチーム、選手たちがするべきで、それを支えるクラブのトップやスタッフが出しゃばるべきではない、というのがポリシーでした。
 4年間アウェイゲームに行く道中では、バスや電車のなかでサポーターの方に会うことも多かったです。私はすべて公共交通機関を使って移動していたので、『社長、バスに乗るんですか?』と言われたり、負けた試合のあとで『社長、今日は残念でしたね』など声をかけられたこともありました。J2のころ、熊本で日曜日の4時キックオフの試合がありました。スタジアム周辺であるサポーターの方から、『早くJ1に上がってください。この時間帯にアウェイで試合があると、日帰りができないので月曜日は仕事を休まないといけないんですよ』と言われたことがありました(当時はJ1が主に土曜日開催、J2は主に日曜日開催だった)。ああ、そうなんだと、言われてハッと気づいたこともありました。
 本当にいいサポーターに恵まれたと思います。今シーズンの最終戦がJ1もJ3もアウェイだったので皆さんの前で挨拶ができず、最後に直接お礼が言えなかったことが唯一の心残りです。サポーターの皆さんには、『4年間、本当にありがとうございました』とぜひ言いたいです」

■2019年は、新しい監督に託す
「2017年にタイトルを2つも獲れたことは想定外でした。残留が最大の目標だったのに賞金を獲得することができ、J1で3位になりましたから、Jリーグから理念強化配分金も入りました。2017年と2018年はほとんど変わらない戦力で戦いましたが、ディフェンスのところでマテイ ヨニッチがいたこと、清武弘嗣が戻って来てくれたことは大きかったです。その前には、柿谷曜一朗、山口蛍、杉本健勇たちもセレッソのために…と戻ってきてくれた。おかげで、この2年はいいシーズンが送れたと思います。
 2019年に向けて、2年契約だった尹さんとの契約を満了としたのは、J1で7位という成績だけれど、チームの対前年比で失点は5点減っているものの得点も24点減っています。守備を重視した戦術を取ったわけでもない、やっぱり勝てなかった1つの要因は得点力不足です。これは監督としての責任はあると思います。もちろん、選手個々にも責任はあるけれど、最終責任はやはり監督にある。また毎試合後に出てくる評価、これはチーム統括部が行っていますが、それが2017年に比べたら不本意なものと言えました。試合に勝てていないこと、選手の起用や交代枠の使い方などについても評価は下がっていました。そんな客観的なデータを持って決断をしたんです。
 尹さんには初めてのタイトルをもたらしてもらい、感謝しかありません。でも、セレッソがもうひとつ強くなるためには、また違った厳しさを持った監督のもとでやるべきだろう、という判断をしました」

■ロティーナ新監督を招へいした理由
「ミゲル アンヘル ロティーナ監督は、東京ヴェルディで2年間指揮を執ってこられて、18位(2016年)だったチームを5位(2017年)、6位(2018年)に上げてきたということが招へいの理由の1つです。東京ヴェルディはアカデミーから上がってきた選手が多くて、セレッソとはすごく似ているところがあります。その若い選手をうまく育てていることと、(他のクラブに)メンバーをどんどん抜かれているにもかかわらず成績を上げてきているところも大きかった。
 そして、ベースは守備をしっかりする組織的なサッカーをしていけるというのが彼の魅力です。私も話をしましたが、最初に『チームのフィロソフィーはなんだ?』と聞いてくるような人です。クラブが求めるものを一緒になって積み上げていきたいという考えを持った、とてもバランスのとれた監督です。彼は練習のときからビデオカメラを回して、映像を分析して『このときに筋肉痛になったのか、ケガをしたのか』『ここがよくない』など、自分の目の届かないところも後でビデオをチェックして選手個々を直す、というやり方らしいです。尹さんのような、いわば精神的な厳しさとは違う厳しさを植えつけてくれる、いわゆるフットボールベースの厳しさ、勝つための厳しさをチームに与えてくれる監督なのではないかと、と判断しました。アカデミーから来た若い選手たちもうまく鍛え上げてくれるのではないか、育成型クラブとしてふさわしい人ではないかと思い、彼に決めたんです」

■新シーズンへの期待
「そういうなかで、レギュラークラスの3選手が移籍するというのは、1つの痛手かもしれません。でもそれは、サッカーの世界ではありうることです。そういうことがあっても常に上を目指せるように、育成のところで選手は育っていますから、彼らが出て行ってしまったことは残念だけれども、私はそんなに心配していないです。足りないところは補強も進めています。
 新しい監督はお話したようにしっかりとした考えを持った方ですし、選手たちはリフレッシュして新しいシーズンを迎えてくれるでしょう。2018年はほとんどオフがなく、長い選手でも1週間ぐらいしか休めていなかったので、選手にとってもきつかったと思います。2019年は1カ月以上の十分なオフがあって、自分なりの過ごし方ができて、新シーズンに臨んでくれると思いますから、とても期待しています」

■森島寛晃新社長へ、これからのセレッソ大阪へ
「森島さんは、大変な仕事をするわけですが、彼自身もあの性格なので一生懸命やると思いますし、周りが支えていけば全然問題はないと思います。彼の性格、几帳面で気配りばかりするから(笑)、最初の1年ぐらいは戸惑うかなとは思いますが、お疲れが出ませんように、体に気をつけて頑張ってください、という思いです。森島さんにはぜひ長期政権を張っていただけるように、チームは頑張ってほしいなと思います。チームも新しい体制になるわけですが、今までのようにタイトルが獲れないチームではないですし、実績ができて、次のステップに行く、もう1ステップ上がるにはいいチャンスです。過去の栄光を引きずることも、過去の良くないことを引きずる必要もない、どんどん様変わりしていくべきです。私が2015年に就任したときと違って、強化の責任者は変わらずしっかりとしたものがあるので、大丈夫です。クラブ、チームが一体となって進んでいってほしいと思います」

4年間で、U-23を含めるとJ1、J2、J3、レディースはなでしこリーグ1部、2部、(3部にあたる)チャレンジリーグと男女の全リーグを見たという玉田社長。「なかなかできない経験で、働き甲斐のある、ものすごく充実した4年間を過ごすことができました」と話す。
(写真は玉田社長にとって最後の公式戦。J3リーグ最終節、ガンバ大阪U-23戦後のロッカールーム)

インタビュー・構成 横井素子
インタビュー:12月21日