12月6日(日)2015 J1昇格プレーオフ決勝
アビスパ福岡 1-1 セレッソ大阪 (15:37/ヤンマー/29,314人)
試合写真・コメントなど
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 95分、GKキム ジンヒョンもゴール前に上がり、セレッソ大阪に関わるすべての人の願いが込められたFKに合わせたエジミウソンのヘディングがバーを越えた瞬間、家本政明主審の試合終了を告げる笛の音が鳴った。1-1で終わった試合だが、シーズン上位チームが勝ち上がれるJ1昇格プレーオフの規定により、アビスパ福岡のJ1昇格が決まった。

 この試合、勝利が絶対条件だったセレッソは、「リスク管理もしながら、相手のペナルティーエリアの中に入って行く」(大熊清監督)難しいミッションが課せられた。そうしたなかでも、選手たちは着々とやるべきことを遂行していった。守備では相手のストロングポイントであるウェリントンに対して山下達也が体を張って奮闘。そこから派生するセカンドボール争いでは山口蛍の存在感が際立ち、福岡と互角以上に渡り合った。ロングスローを含む福岡のセットプレーにも無難に対応し、前半のセレッソがピンチらしいピンチを迎えることは、ほぼなかった。一方の攻撃では、36分に放った玉田圭司のCKや37分の田代有三のシュートなど、得点につながりそうなチャンスを相手に防がれこそしたが、前半の0-0はセレッソにとっては悪くない展開だった。

 勝負を懸けた後半。セレッソは攻撃のテンポが一段上がり、福岡の守備陣を下げることに成功する。セレッソがじわじわと押し込むと、スコアが動いたのは60分だった。
 山口の縦パスを受けた玉田が相手DFを交わして関口訓充にはたくと、そのまま前方へ加速。「中盤でボールを受けた後、もう一度前に出て行ってほしい」という大熊監督の指示を忠実に実行する。関口の絶妙なリターンを受け、左足のつま先でゴールへ押し込んだ。この瞬間、ヤンマースタジアム長居は地鳴りのような大歓声に包まれ、試合のテンションは一気に沸騰した。
 このまま負ければ、3位でシーズンを終えながらJ1昇格を逃す結果に終わる福岡も、73分に坂田大輔を、84分に中原貴之を投入して反撃に出る。セレッソとしては、福岡が前に人と重心を傾け、隙が生まれた83分に巡ってきた追加点のチャンスをモノにできなかったことが悔やまれた。

 それでも、時計の針は確実に過ぎて行った。セレッソの1年でのJ1昇格も次第に見えてきた87分、痛恨の失点を喫してしまう。
「試合を通して守備はできていたけど、失点の場面だけボールの取られ方が悪くて、全体のバランスが悪くなり、やられてしまった」と試合後に山口も振り返ったように、この場面、セレッソはマイボールの状態から丸橋祐介が中村北斗に奪われると、中村北斗から前線に当てられてサイドを変えられ、慌てた右サイドも人を捕まえることができなかった。そのまま、サイドを突破した福岡の亀川諒史から放たれたクロスは、セレッソにとって、「時間が止まったような感じだったので、嫌な予感はした」(山下達也)。刹那、攻撃の起点になった中村北斗が逆サイドから駆け上がり、福岡サポーターの思いを乗せたシュートを豪快にサイドネットに突き刺した。

 一転して、このままではJ1昇格プレーオフ敗退となるセレッソ。失点直後の88分に中澤聡太を入れて前線に送り、パワープレーの意図を明確にすると、89分にもエジミウソンを投入。後半アディショナルタイムには山下も前線に上がり、92分に際どいシュートを放つなど、セレッソは執念を見せた。ただし、そんななりふり構わぬ攻撃も届かず、冒頭のシーンで試合終了を迎えた。

 完敗した第41節のV・ファーレン長崎戦後の監督交代という劇薬が功を奏し、セレッソは終盤、見事に盛り返した。
“1年でのJ1復帰”。
 その思いがJ1昇格プレーオフ2戦を含むラスト3試合に凝縮されたが、福岡には福岡の譲れぬ想いもあった。J2リーグ戦を怒とうの8連勝で締めくくり、最終的にはジュビロ磐田と同じ勝点82で終えたプライドと、最後まであきらめない確固たる勝負強さ。ヤンマースタジアム長居には、セレッソの昇格を願う強さだけではなく、福岡にとっての4年分の思いも凝縮されていた。中村北斗のシュートが決まった瞬間、セレッソの先制点に負けない感情の爆発にスタジアム全体が揺れた。試合後、歓喜に沸く福岡のサポーター席からは、「セレッソ大阪」コールも届けられた。来季、J1の舞台での福岡の大暴れを期待して、エールを送らせていただきたい。

 互いの思いがぶつかり合った、熱く激しい、引き込まれた好ゲームは、福岡のJ1昇格で幕を閉じ、セレッソは来季もJ2で戦うことが決定した。明暗くっきり分かれた格好となったが、この日、チームのために死力を尽くして戦い、試合後にあふれる涙を流したセレッソの選手たちの姿を忘れてはならない。そして、チーム、サポーターの想いが乗り移ったかのような、執念の、一時はJ1昇格を手繰り寄せた玉田のゴールは、セレッソの歴史に残り続ける。紆余曲折ありながらも、最後まで目標に向かって戦い続けた今季は決して無駄ではない。届かなかった“あと一歩”を埋めるべく、来季につなげ、胸を張って自動昇格でJ1へ戻るため、セレッソの新たな戦いはすぐに始まる。

文・小田尚史