7月3日(日)2016明治安田生命J2リーグ第21節
ロアッソ熊本 1-5 セレッソ大阪 (18:03/うまスタ/9,322人)
試合写真・コメントなど
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 85日ぶりにロアッソ熊本のホーム「うまかな・よかなスタジアム」で開催された今節。安全上の理由で開放されたのはメインスタンドのみとなったが、9,800人が収容可能となるなか、スタジアムを埋めた観客の数は9,322人。ぎっしり満員。見渡す限りに赤とピンクで埋め尽くされた光景は、まさに壮観の一言だった。試合前から両サポーターが生み出す熱により、スタジアムの空気は完全に“できあがっていた”。

 すばらしい雰囲気に包まれたなかで行われた一戦。セレッソ大阪は、気を付けていたはずの試合の入りで熊本に先制を許してしまう。中盤でのパス交換のミスが発端となって与えたCKから失点。一斉に湧き立つホームベンチと熊本のサポーター席。一瞬、セレッソにとってはこのまま難しい展開になるかと思われたが、ピッチ上の選手たちは冷静だった。 

「前半は相手の勢いもあってバタバタする場面もあったけど、相手が気持ちを高く持ってくるなかで、自分たちもそれ以上の気持ちで挑もうと思っていた」(山下達也)。セレッソは、熱い気持ちを持ちながらも、「チームとして慌てることなく落ち着いて試合を進めることができた」(杉本健勇)。ボールを握って主導権を奪い返すと、13分、今度はこちらのCKからブルーノ メネゲウのキックに杉本が合わせ、最後は清原翔平が押し込んで同点とした。

 さらにセレッソは27分、リカルド サントスが獲得したPKをブルーノ メネゲウが落ち着いて決めて逆転に成功すると、35分にも、この試合がセレッソ復帰戦となった山口蛍のパスを受けた清原が前を向いてドリブル、ブルーノ メネゲウにパスを送ると、ブルーノ メネゲウは2点目のPKのお返しとばかりの優しいラストパスをリカルド サントスに配球。一度はポストに当てながらも、跳ね返りをしっかりとリカルド サントスが決めて、セレッソが1-3と熊本を突き放して前半を終えた。

 後半は、前半のPKを与えたプレーで1人退場となった熊本に対してセレッソがボールを支配すると、64分には、ソウザのパスからブルーノ メネゲウが相手DFを引きつけたなかでのスルーでスペースが生まれ、杉本がしっかりとコースを狙ったすばらしいミドルシュートを決めて、さらにリードを広げた。「点が入っても、最後まで点を取りに行く姿勢で戦おう」(大熊清監督)と意思統一して後半に臨んだセレッソイレブンは最後まで攻撃の手を緩めず、90+1分には、途中出場の玉田圭司の絶妙なスルーパスが起点となり、田中裕介のクロスをリカルド サントスが合わせて5点目を奪った。

 2点リードで迎えた後半最初の時間帯であわや失点のピンチを作ったことは反省材料だが、後半は熊本のシュートをわずか2本に抑える試合運びでセレッソが1-5で熊本を下した。途中出場でセンターバックに入り、試合を締める役割を果たした熊本県出身の藤本康太は、神妙な面持ちで試合を振り返った。「ピッチに出る時は、いろいろな思いが頭をよぎりました。熊本の皆さんも、まだ不安の日々が続いていると思いますが、少しずつ復興に向けて歩んでいると思うので、僕もそれに負けないようにJ1昇格に向けて頑張りたいと思います」。 

 実際、キックオフの約1時間前にも、熊本県では震度3の地震があった。まだまだ復興は道半ば。それでも、この日のスタジアムには未来への希望が確かに感じられた。試合後は、熊本の選手がセレッソサポーター席へ挨拶に向かうと、「ロアッソ熊本」コールが響き渡り、セレッソの選手が熊本サポーター席へ挨拶に向かうと、熊本サポーターからは「セレッソ大阪」コールが送られた。試合中は判定を巡って騒然となる場面もあったが、試合が終わればノーサイド。互いの健闘を称えあう光景は清々しく、感動的でもあった。「サッカーが日常にある喜び」に包まれた一戦は、「サッカー、そしてJリーグの絆」を確かめ合う愛に満ちていた。

 そんな「特別な一戦」で今季最多の5得点を奪って、今季初の5連勝を達成したセレッソは、最高の形でJ2リーグ前半戦を締めくくった。次節は首位・北海道コンサドーレ札幌との大一番。勝点2差で追うセレッソとしては、ホームで必勝を期して臨む一戦となる。

文・小田尚史