やっと立てた長居のピッチ。 しかし…


第2回 1st HALF

 小学6年、中学1年、そして高校1年と、3度も左足前十字靭帯断裂という重傷を負い、そのたびに手術をして乗り越えてきた今井誠次郎。3回目の手術を終えてチームに合流したのは、高校3年生のシーズン(2012年)の初めだった。
「体力的にはきつかったですけど、大熊(裕司)監督のサッカーに少しずつ慣れてきていました。プレミアリーグ(高円宮杯U-18サッカーリーグ2012 プレミアリーグ ウエスト)の開幕戦(vs作陽高校)の前、僕は微妙な立ち位置で、AチームとBチームの間、メンバーに入れるか入れないかというところでした」

 U-18の試合のメンバーは1日前に発表される。そして、開幕戦のある週は木曜日に練習試合が組まれていた。
「僕は、練習試合のメンバーに入った。つまり、日曜日の公式戦のメンバーは外れたということかな、と思いました。でも、『絶対メンバーに入ったる』と思って臨んだんです。その京都サンガとの練習試合が絶好調だった(笑)。次の日の練習でパッと入れ替わって、試合メンバーに僕の名前があった。開幕戦のベンチに入れたんです」

 舞台は長居スタジアム(現ヤンマースタジアム長居)、75分に交代出場で出番がやってきた。
「夢のような時間でした。長居のピッチに立つことができたんです。試合は2-0で勝ちました。サポーターのみなさんもたくさん来てくれていて、僕がずっとケガをしていたのを知っているから、すごく応援してもらいました」

今井誠次郎
プレミアリーグ ウエスト開幕戦。チームメイトとともに喜びを爆発させる(今井は背番号17)【本人提供】

 プレミアリーグ第4節(vs愛媛FCユース)には、U-18での公式戦初ゴールを決めた。クラスメイトであり、チームメイトでもあるみんなに、ようやく仲間入りできた気がした。「高校を卒業したら、大学に行こう。そして、プロサッカー選手になる」という将来の夢を描き始めていた8月のことだった。
「練習試合で、ボールが前に転がってきたときに、変に足を伸ばして取ろうとして…また膝をやってしまいました。同じケガでした。  このときは、手術はしませんでした。ドクターから、これ以上手術はできないと言われました。手術してもサッカーはできないと。プロになるという夢はその時点で終わりました。遊びで中途半端でやるなら、サッカーをするつもりはありませんでした。やるなら真剣にやりたかった。もうサッカーできへんねんなと思うと、自然に涙が出て止まらなかったです。1日1回は泣いていました」

 チームメイトや家族、友達に相談したが、次の目標はなかなか見つけることができなかった。何をしたらいいのか、考えても思いつかなかった。
「その時に、宮本さん(功・セレッソ大阪スポーツクラブ代表理事)から、『スクールコーチをしてみないか』と声をかけてもらいました。長居の事務所に親も一緒に呼んでもらって話をさせてもらったんですが、その中で『(南野)拓実より能力はあった。もともとはお前がトップに上がる選手だった』と言ってもらいました。それを聞いて、ちょっとだけ自信がわいたというか…そこまで期待されていたのに、応えられなかったんだとも思いましたけど、うれしかったです」

 しかし、スクールコーチになる決心はなかなかつかなかった。
「絶対やりたくないと思いました。人前でしゃべるのが得意じゃないので、指導者にはなれないと思ったんです。『ちょっと考えます』と言っていろんな人に相談したら、『1回やってみたらどうか』とほとんどの人に言われました。何をしたらいいかわからなかったし、やってみるかと思って決めました。  1年目(2013年)はアルバイトです。初めの3カ月は先輩コーチのサポートについて、いろいろなスクールを回るんです。そのときは、『やっぱり向いていない。いつ辞めようか』とばかり思っていました。  変化してきたのは、4カ月目ぐらいから。担当スクールが決まって『このままじゃアカン、いい加減にやっていたら申し訳ない』と思うようになりました」

今井誠次郎
スクール泉大津校で指導する今井コーチ。スクール生からは「せいちゃんコーチ」と呼ばれている。

 辞めたいと思っていたころから、先輩コーチの言っていること、していることは全部メモしていた。自分がメインのコーチを務めるようになったら、いい部分は真似しようと思っていたのだが、いざやってみるとなかなかできなかった。自覚を持ってやらないといけない、と思ったのはそのときが初めてだった。

ADDITIONAL TIMEへつづく

文・構成 横井素子



【いまい せいじろう】
1994年5月17日生まれ 大阪府出身。
地元のつばさFCから2007年にセレッソ大阪U-15に加入。2010年には、U-18に昇格したが、4度の左足前十字靭帯断裂を負い、2012年の高校3年時に引退を決めた。
2013年からセレッソ大阪サッカースクールコーチを務め、今年が3年目。南野拓実(ザルツブルク)、秋山大地(愛媛FCに期限付き移籍中)とはU-15時代からのチームメイト。
現在はセレッソ大阪スポーツクラブ泉大津校のメインコーチを務める。
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