あの瞬間に「戻ろう」と決めた

 昨シーズン、川崎フロンターレに完全移籍した。U-15から約10年間在籍したセレッソを離れる決断は、本人にとっても、周りの人たちにとっても重く、大きなものだった。
そして1年後の今、再びセレッソへ。フロンターレでの経験、復帰を決意した理由、セレッソに対する思い…杉本健勇が心中を語る。


■久しぶりに舞洲で練習して、雰囲気はどうですか?
「(離れていたのは)1年間なんで、特に変わっていないです。サポーターの皆さんも『お帰り』と言ってくれる人もいるので、自分の家に帰って来た感じです。メンバーは変わりましたけど、知っている人も多いし、そんなに変わりはないですね」

■昨シーズン、川崎フロンターレでプレーした感想は?
「移籍して1年目の難しいシーズンでもあり、川崎というチームやサッカーも全然違うなかで、最初は慣れようというか、しっかり入り込もうと取り組んでいました。1年通していえば、もっと試合に出ないとアカンかったと思いますし、途中出場が多かったので…そこは反省しないといけません。コミュニケーションはまったく問題なく取れていたのですが、ライバルがいたなかで、自分が勝ち取れなかったというのは、すごく悔しい思いがあります」

■勝ち取れなかったのは、何が足りなかったと?
「どうしても周りに合わせようとしてしまったというのもありましたし、あとはシュートチャンスがあったなかで、自分が決めていたら、もっと試合に使われていただろうと思います。そういう1本のチャンスに決め切る力は、まだまだだと思いました」

■逆に1年で得たものは大きかったですか?
「もちろんそうですね。やっぱり、フロンターレには個々の力が高い選手がいましたし、経験のある選手もいて、Jリーグでもトップクラスにうまかったです。そういうところに入ってやれて、学ぶことも多かったです。特に、(大久保)嘉人さんは3年連続で得点王を取っていますし、あの人の存在は大きくて、自分も負けたくないという気持ちでやっていました。学ぶところはすごく多かったです。それを、これからセレッソで出していかないといけないと思います」

■大久保選手のどういうところがすごいと思いましたか?
「シンプルにシュートがうまいです。シュート練習もすごくしていますし、練習に対する気持ちや、『俺が決める』っていう気持ちもすごく感じました。ホント、取るべくして取っているなと思います。自分もそういうところは見習わないといけないですし、負けていたらダメだと思います」

■フロンターレに行って、よかったと感じていますか?
「よかったです。全然、後悔していないですし、よかったと思います」


■セレッソを出るときは、かなり悩んだと聞きました。
「正直、メッチャ悩みました。その判断は間違ってなかったと自分では思いますけど、『何しに行ったん?1年で戻ってきて』と言う人ももちろんいると思います、客観的に見たら。ただ、得たものはすごく多かったです。
 セレッソは自分が育ったクラブなので、そこを離れるというのは…居心地はもちろん、こっちのほうがいい。でも、チャレンジしたかった。サッカー人生、選手としての寿命って長くないじゃないですか。自分がチャレンジしたいのはどっちか?と考えたときに、外に出て行ってチャレンジしたいという気持ちが強かったです。出て行く判断というか、勇気ということについて、そこを決められたというのは、すごく誇りに思います」

■昨シーズン、セレッソの試合は見ていましたか?
「はい。ほぼ全試合見ました。特にJ1昇格プレーオフは、愛媛との準決勝、福岡との決勝も、家で見ていました。福岡戦は先制して、『もう勝った』と思って見ていて、油断していました(苦笑)。最後に入れられたときは、マジで叫びました。みんなもホントに悔しかっただろうと思います。ただ、これは誰にも言っていなかったことですけど、福岡に引き分けたあの瞬間に、セレッソに戻る気持ちが固まりました」

Vol.14【後編】につづく

構成・文 横井素子
インタビュー:1月21日